北九州市から「世界文化遺産」誕生~第39回ユネスコ世界遺産委員会において登録決定 (2015.08.01にKIGSにて取材)
7月5日に第39回ユネスコ世界遺産委員会において、八幡製鐵所関連4施設が世界文化遺産に登録決定されました。
①旧本事務所(眺望スペース有り)
②修繕工場(見学不可)
③旧鍛冶工場(見学不可)
④遠賀川水源地ポンプ室(眺望スペース有り)
校友会北九州支部で広報担当をしておりますHP運営委員としては、発信すべく情報収集のため、まず北九州イノベーションギャラリー(KIGS)に伺いました。
ちょうど、祝・世界文化遺産登録記念展の「八幡鐵ものがたり(2015.7.4~12.20)」が開催されており、山崎顧問(前支部長)の計らいで、KIGSの総務室長の前薗様から直に説明を受けることが出来ました。前薗様へは、事前に「公的機関およびマスコミが発信する内容よりも多少マニアックな情報が欲しい」ことをお伝えしたこともあり、八幡の呼び名に「やはた」「ヤワタ」の2つが混在した時期があり、その理由と解説からのスタートとなりました。また、製鐵所の建設地として、水利・陸便・材料・運賃等が検討された上で、当時の遠賀郡八幡村以外で、安芸郡坂村(広島)、企救郡柳ヶ浦村、企救郡板櫃村が最終的に候補地として残ったことなどのお話をお聞きすることが出来ました。
記念展の会場には、高炉前での製鐵所幹部・製鐵所関係者の集合写真、八幡に製鐵所設置が決るまでの誘致活動の中心人物であった安川敬一郎氏(当時は若松に在住)の紹介、当時のドイツ人技師と日本人トップの年俸の比較表(ドイツ人技師は約4倍の年俸)、当時に構内を走った蒸気機関車の模型等が展示されていました。
ここからは、記者であります私の多少「独断」と「偏見」になりますが、この記念展で非常に印象に残ったのは購買部で販売された「くろがね堅パン」と世界文化遺産には指定されませんでしたが「河内貯水池」であります。 当時、製鐵所内で働く人が増え、廉価で生活必需品等を従業員に提供するために購買部が設置されたとのこと。購買部では西日本で初めてセルフサービスのシステムが導入されたようで、当時の人気商品「くろがね羊羹」「くろがね堅パン」も展示してありました。実は、この「くろがね堅パン」の今昔物語となりますが、50年前に包装された「くろがね堅パン」を入手された人がおられ、50年の時を経て開封して食べたそうです。よほど保存状態が良かったのか、美味しく食べられたとのこと。この説明が「くろがね堅パン」に添えられておりました。
次に「河内貯水池」、ここは本日ご説明をいただいた前薗様の一押しの場所(施設)であります。河内貯水池は1919年に着工、1927年に竣工した施設です。陣頭指揮をとられた土木課長の沼田尚徳氏とその家族の物語が絡んでおり、妻の泰子様はしっかりと家庭を守る傍ら、ダム工事の現場で働く夫およびその部下のために頻繁に食べ物・飲み物を届けるなど、頭を下げながら彼らの労をねぎらったそうです。無理をしながらの現場通いがたたり、完成した貯水池を見届けることなく40歳で他界。この献身的な内助の功により、当時のダム建設現場では信じられないことですが、死亡者ゼロという形でダムが無事に完成したとのことです。河内貯水池そばの白山宮には、亡き妻への惜別の想いを込めて「妻恋碑」の記念碑が建てられております。ちなみに、妻の泰子様以外にも子供様が早く亡くなられるなど、沼田家の家族運はあまり良くなかったようです。
世界文化遺産に指定された八幡製鐵所関連4施設、眺望スペース有りは①旧本事務所と④遠賀川水源地ポンプ室、②修繕工場と③旧鍛冶工場は見学不可となっております。KIGSの近場で、眺望スペース有りの旧本事務所へは、KIGS裏の駐車場から20分おきにシャトルバスが運行されており、早速足を運びました。
直接、官営八幡製鐵所の旧本事務所の眺望スペースへ車で行かれる場合には、JRAのウインズ八幡を目指して行かれると、道に迷わずに済みます。
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旧本事務所は製鐵所創業の2年前、1899年に建設され、日本と西洋の建築様式を併せ持つ赤レンガ建造物。正面から見ると、我が母校同志社の校舎と見間違う建物といった感じです。シャトルバスを降りた眺望スペースの入り口では「1912年当時の旧本事務所の白黒写真の絵はがき」がプレゼントされておりました。
眺望スペース有りのもう一つの施設「遠賀川水源地ポンプ室」は今回の見学では伺うことが出来ませんでした。KIGSの前薗総務室長の一押しでもあります「河内貯水池」と併せて、次回の私の宿題となりました。
また、今回の世界文化遺産への登録は北九州エリア(中間含む)で八幡製鐵所関連4施設が決定されましたが、「明治日本の産業革命遺産」としてみた場合には、北九州市を含む8県11市にまたがる23の資産から成り立っております。KIGSの前薗様も言われましたが、選ばれた4施設にだけ注目するのではなく。その他の施設、例えば「八幡エリア」であれば河内貯水池や大谷会館、「若松エリア」であれば旧古河鉱業若松ビルや石炭会館、「戸畑エリア」であれば旧松本家住宅、「門司エリア」であれば門司赤煉瓦プレイスや九州鉄道記念館。「ものづくりの街」北九州には注目すべき施設が非常に多いようです。
上記の「世界遺産登録までの道のり」にも登場されている加藤康子様が2015年8月4日の日経新聞朝刊の第2面の『旬の人 時の人』で紹介されております。